Ciao! Chicco!!
Ciao! My friend, come stai? “Bene”からいつも始まる。
30年いや32年必ずこのあいさつから始まる。
これもVINITALYに関わるお話だ。
BERTA社とは古いつきあいだ。フードライナーが長く取引しているワイナリー、蒸留所といえば最も長いのがCa’del Boscoで35〜36年にはなる。それからBIGI、Pellegrino、NARDINIあたりでBERTAはその次ぐらいと思われる。
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現在の社長(オーナー)はエンリコ・ベルタという大柄でオシャレでとてもやさしい男性だ。しかし、だれも彼の事をエンリコとは呼ばない。みんな愛着を持ってキッコ「Chicco」と呼ぶ。彼とは本当に長いつきあいだ。年齢もほぼ同じ。現在、彼は62才、私が63才、一つ違いだ。最初に彼と出会ったのは毎年4月にVeronaで開催されるVINITALYだった。当時のフードライナーは全社員(現在の会長夫妻も含め)で10人ほどの小さな会社だったが、毎年のVINITALYには何かを探しに行くのが決まりで、ほとんどは私と会長が行っていた。おかげさまでその後フードライナーも社員が増え、あれから5年も過ぎた頃にはスタッフ2〜3名も同行し、VINITALY会場を日本人数名がゾロゾロと歩き回るのが恒例になっていた。
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VINITALYはイタリア最大のワイン関連の巨大な見本市だ。
北から南まですべての州の生産者が出展し、全部で2500ほどのワイナリーや蒸留所がブースを出している。それが5日間続く。たぶん今は4日になったのかな。聞いた話では、夕方になり閉館時間が近づくと来場者は一斉に出口をめざし閉館となるのだが、ずいぶん前は、閉館時間になっても誰も帰ろうとせず、夜の9時頃にはみんなテンションが上がり23時頃にようやく疲れて帰り始める、ということだったようだ。さすがにイタリアの酒のイベントだと納得する。盛り上がると誰も止められない。
さて、BERTA社の話に戻そう。その年も会長と私がVINITALY会場を忙しく動き回っていた。ただあの日は、アポイントがダブってしまい、会長と私は別々のブースを回っていた。たしか開催4日目であと1日残した終了間際の16時頃だったと思う。一人でピエモンテ館を歩いていた時に突然後から「ミスター!ミスター!!」と声を掛けられた。大きな声で何度も「ミスター!ミスター!!」と叫ぶ声。そこに立っていたのがChicco Bertaだった。話しをすると、どうもグラッパの味を見て欲しい、と言っているようだ。当時、彼は英語が苦手だったので、良くはわからなかったが、とりあえずベルタ・ブースに行ってみた。
見るからに家族経営的な雰囲気満載の小さなブースだった。全部で4人ほどいたと思うが、エレオノーラという女性スタッフだけが英語を話した。
エレオノーラは今では大御所として事務所を仕切っている。
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現在のBERTAのグラッパといえば長期熟成の琥珀色のグラッパが有名だが、1990年当時、そのようなグラッパはゼロ。すべて無色透明なグラッパだけだった。当時、イタリア全体を見渡しても琥珀色のグラッパなどは無かった。
大樽で寝かせ少し薄い樽の色が付いた程度のRISERVAタイプはあったが、ウイスキーやブランデーのような濃い琥珀色のグラッパは無かった。ベルタにしても今から20年程前、2000年くらいに初めて長期熟成タイプの色々なグラッパを売り出したのだ。
当然ながら私たちが初めて紹介されたグラッパもすべて無色透明なものばかりだった。
1990年当時、私たちはすでにグラッパの老舗で国民的イタリアングラッパの代表格であるNARDINIのグラッパを輸入販売していたので、あえて他のグラッパをラインナップに加える予定もなかった。言うまでもないが当時の日本でグラッパなど知っている人はほとんどいなかった。だから商売としていくつものメーカーを揃えることは考えていなかった。今思えば、たまたまピエモンテ館を歩いていたら「ミスター!ミスター!!」と声を掛けられ、軽く立ち寄って、いくつかのグラッパを試飲しただけのはじまりだった。
しかしそこで味わったグラッパの数々は私がそれまでに飲んだすべてのグラッパとはかけ離れた味わいで、本当に旨い!と思った。色々なブドウから色々なグラッパを作っていたが、どれもこれも華やかで丸みがあり、香りがあり、それまでのグラッパに対するイメージを一変させてくれた。「なんだこれ!」であった。すべてがやわらかいのだ。一瞬にしてファンになってしまった。とはいえ、その場には私一人しかいなかったので、輸入をするしないの決定権もなく、大急ぎで現会長、当時の社長を探し回った。今のように携帯電話もないなか、とにかくそこら中を必死で走り回った。何とか社長と出会い再度、BERTAブースに戻り社長に色々と説明した。社長も私と同じでグラッパの扱いを増やすつもりはなかったが、いくつか試飲をしてもらったところ、「いいねぇ」だった。
さっそく翌日ピエモンテの蒸留所に赴いた。毎年VINITALYの終了後は社長と二人で関係あるワイナリーを訪問するのが慣例で、その年はたまたまピエモンテに行く予定だったから不思議と縁を感じる。
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私としては初めてのグラッパ蒸留所の訪問となった。蒸留所はピエモンテ州アスティ県ニッツァモンフェラート(Nizza Monferrato)というアスティ県の中では2〜3番目に大きな街の中心街にあった。大きな街と言っても、10,000人程しか住んでいない。中世の建物が多く残っていて、街全体が裕福な雰囲気を散らつかせている。今となっては、ニッツァは私にとって大好きな街のひとつになっている。
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突然の出会いから30年を越えるつきあいが生まれ、お気に入りの街もできた。
きっかけは年に一度のVINITALY。今年は4月10日から開催される予定だ。
新型コロナウィルスによるパンデミックの影響で3年ぶりの開催となる。
BERTA社もきっと出展することだろう。私が行けるかどうかはわからないがこれからも素晴らしい出会いと再会の場となるVINITALYとBERTA社の発展を祈ろう。