ピエロパンの話の続きは、フードライナー全社員が大好きなMr.SOAVE、LEONILDO PIEROPAN(レオニルド)との思い出話からはじめよう。
レオニルドさんはピエロパン社の3代目で、SOAVEの品質と名前を大きく盛り上げた第一人者だ。
私がレオニルドさんと初めて出会った時には、もうすでに世界中のワイン関係者の中で「ピエロパンは違う」「ピエロパンは別格だ」と称賛されるワインメーカーであった。その当時、すでにソアヴェは有名だったが、安くて飲み易い家飲み用やカジュアルなイタリア料理店で扱う程度の認識だった。今思えばあの頃のワインのレベルは今と比べると相当に低かったんじゃないかな。栽培技術も醸造技術も今のようにコンピュータ管理などなく、ただ勘だけに頼っていたメーカーも多かった。だからフレッシュで新しい時は爽やかで美味かったが圧倒的に持ちが悪かった。1年もすると変色したり苦みが出たり、日本に到着したての頃は発泡していたり、とにかく品質にバラつきがあった。その点ピエロパンは違っていた。常に高品質で安定していた。
私たちの商売でいえば安定している事とクレームが少ない事がとても重要になる。今年は良かった、去年は悪かった、来年はどうなるでは安心してお客様にお勧めできない。
最近ではそのような不安定で不潔なワインが“これが自然でこれが本来”などと崇めるワインファンも多いようだが、決してそれが本来ではないと思っている。
ピエロパン社は、取引先の中で圧倒的に訪問回数の多いワイナリーのひとつだ。年に1、2回は必ず行っている。コロナ禍でこの2年半は行けてないが、毎年4月にVERONAで開催されるVINITALYの最終日にピエロパンファミリーと夕食を食べることが、この20年間の定番行事になっている。
VINITALYが開催されるFIERA VERONAの会場からSOAVEの街まで車で20分ほどなので、ピエロパン社に寄って飲みながらおしゃべりをして、そこから何かを食べに行ったり、セラーで食事をごちそうになったり、色々と情報交換をするのが楽しみのひとつになっている。
ところで、弊社カタログのピエロパンのページに「OLD VINTAGE COLLECTION」というアイテムが載っているのを御存知だろうか。
2009年からピエロパン社とフードライナーではじめた自慢のコレクションだ。
先にも書いたが、私は毎年ピエロパンワイナリーを訪問している。いつも美しくチャーミングでやさしい奥様のマダムTERESITA(テレジタ)が笑顔で迎えてくれ、何時間もおしゃべりをする。
ただ、レオニルドさんもテレジタさんもお二人とも英語が話せないので一方的なイタリア語攻撃を受ける。ほとんどの場合は現在の主役である息子のアンドレアかダリオが通訳をしてくれるが、たまに時間が合わずに私とレオニルド、テレジタだけの3人になった場合でも攻撃は止まない。彼らにしてみれば日本のマーケット事情や自分たちのワインの評判など知りたい事だらけなので休む間もなく話してくる、笑いながら。レオニルドもテレジタもいつも笑顔なのだ。
だからその空気感、その時間が私はとても好きだ。なんだか実家に帰ったような気持ちになる。そんな時は必ずといって良いくらい地下のワインセラーから数種類のワインを持って来てくれて「どれが飲みたい?」「これを飲んで」となる。
そこには会話など必要ないのだろう。ワインを開ける時もいつもニコニコ顔で、その時のVintageや暑かった年だったとか、雨が多かったとか。さすがにその程度のイタリア語は私にでも理解できるので色々と話を聞きながら味見をさせていただく。
時々オールドヴィンテージも飲ませてもらった。
古い古いソアヴェの栓を抜く時のレオニルドのうれしそうな笑顔はとても印象的で、それを見ているテレジタもやっぱり笑っているのだ。
古い古いソアヴェなのだけれど、いつもとても美味しい。 過去何十年にわたり古いソアヴェを多く飲ませていただいたが、ほとんどのワインが生き生きとツヤがあり見事に良い熟成をしていた。時には20年くらい寝かせたCALVARINO(カルヴァリーノ)や10年以上寝かせたSOAVE CLASSICOだったが本当に美味しい。そんな風にピエロパンの古いワインの良さを直接感じていたので、2009年のある時にレオニルドさんにお願いをした。
フードライナーのためにCALVARINOとLA ROCCAを毎年300本ずつ、地下セラーで寝かせてくれませんか?5年間フードライナーのために二つのCruのSOAVE CLASSICOを置いておいてくれませんか?6年目の300本ずつが加わった時点で6年前の300本ずつを日本に送ってほしいと。
最初は意味がよくわからなかったようだったが、ひたすらお願いした。
私たちの立場でいうと、白ワインをそんなに寝かせて6年目に引き取るという事が、いかにリスキーで危険を伴うのか?という事になるが、ピエロパンのSOAVE CLASSICOに関しては直感的にとても自信があった。
弊社は神戸の実績ある倉庫会社と提携しており、とても優秀で高品質な保管をしてくれるので、それはそれで不安なく神戸でOLD VINTAGEは作れるのだが、私としてはやはりSOAVEの街でピエロパンのセラーでゆっくり熟成させてもらいたかったからだ。
当時のピエロパン社は狭く、このようなお願いができるスペースはなかったが、レオニルドは喜んでこの企画を受けてくれた。「あなたはとてもユニークで面白い事を言う。とても素晴らしいプロジェクトだ。ぜひやろう」と言ってくれた。
その時も満面の笑顔ですごく喜んでくれた。当然倉庫賃を支払うので結果的には高額なワインになってしまうが、私としてはこれこそが“OLD VINTAGE COLLECTION”だと自信をもってお客様にご案内ができる。
それとみなさんに知って欲しかったのは、5年という時間を経たCALVARINOとLA ROCCAの味わいの違いだ。CALVARINOは1971年にSOAVEでは初めての単一畑(シングルヴィニヤード)として発売されたワインで、一切木樽に触れさせず内側にガラスコーティングをしているセメントタンクで一年間シュール・リーのシステムで熟成させボトリングし、数ヶ月の瓶内熟成を経てリリース。
CALVARINOは石灰土壌から生まれる硬めのミネラル感とストレートな果実味。LA ROCCAは粘土質を含んだ軟土質の石灰岩から生まれるやわらかめのミネラル感と木樽での15ヶ月熟成から生まれるふくよかさと芳醇な香り。
これらのワインはリリースと同時に若いうちからその違いは感じとれるが、5年間の瓶熟成によって、より一層その違いを引き出す事ができるのだ。
CALVARINO とLA ROCCAは、私が考える飛車と角の違いのようなものだ。
このコラボによって、改めてフードライナーとピエロパンの関係はより深まったように感じる。なにせ世界中でも日本だけの企画なのだから。